先日渋谷PARCOで開催された「MOTHERのことばとおみせ展」へ行きました。
目玉商品として売られていたのが、これまでの3シリーズのセリフを全て収録した本「MOTHERのことば。」。
MOTHERのグッズね、無条件で買いますとも!だって僕はMOTHERファンだからね!とか雑な動機で買うだけ買って、カバーを見てニヤニヤしながら数日寝かせておきましたとさ。
しばらく経って、このMOTHERのことば。をパラパラめくってみると、妙な感覚に陥って読み呆けてしまった。なんだこれ、コレクションアイテムだと思ったら大間違いだった。すごく持っていかれる。
この本、危険です。
ストーリー順にセリフを眺めているうちに、冒険している感覚に。
「MOTHERのことば。」の中身、内容について。
このMOTHERのことば。は、ストーリーをいくつかの章に分け、行く先々訪れる順に登場するキャラクターのセリフ、マップ、イベントシーンから拾えるアイテムまでを網羅的に掲載した構成になっている。
キャラクターのセリフは選択肢別でフローチャートのように表現されているので、関連するイベントや別キャラクターの派生も分かりやすく表現されている。
また、倒したあとの「おとなしくなった」だとか「おにいさんはかっとなった」だとか、行く先々のエリアに登場する敵キャラのセリフや振る舞いまですべてきちんと文字に起こされている。
かつて辿ったストーリーに沿って、登場するキャラクターとの会話の中であの映像が断片的に、時々挟まれるゲーム中の画面で一気に頭に広がる。トドメに周辺に登場する敵キャラクターのセリフや動きも登場し、より鮮明な映像となって蘇る。
この繰り返しで、次のエリアへとページを進める。
もうMOTHERのあの世界を冒険している。ゲーム機要らないわ。
つまりどういうことかというと、ボタンを押してコマンドを開く、移動する、体力を管理する、というゲームの工程をすっ飛ばして、最初から超スピードでMOTHERをプレイしているような妙な気持ちになるのだ。残り体力が少ないまま墓場の奥深くに潜入する恐怖や、スターマンのPKビームに怯える必要もなく。ある種究極のチート。
MOTHER1なんて、最初の町「マザーズデイ」に到達するまで15分くらいかかるものを、ものの3分で辿れた。当然掲載されているエンディングまで、1時間もかからず到達してしまうんじゃないか?
シームレスなマップ、マザーズデイの町ってこんなに広かったのか
ファンを名乗りながら、知らないセリフもたくさん発見。
MOTHERファンを語るくらいなので、だいたいのセリフは一通り読んだつもりでいた。特にファミコンの初代は。
それでもこれだけ網羅されていると、読んだことのないセリフにも出会えたし、コンテンツ量の膨大なMOTHER3なんかは話しかけていないキャラクターばかりで、ハッとする名言も多い。
足を踏み入れたことすらないエリアもあったけれど、こんな金言を読み飛ばしていたのか。もったいないことをした。
しかしグイグイ読み進めてしまう。
MOTHERに出てくる言葉はどれもシンプルで、だけど聞き捨てならない毒っ気があってニヤニヤしたり、実生活に置き換えられるような普遍性にハッとしたり。
商売っ気を出す医者や、人間社会で本音を漏らす動物。普段なかなか触れない、触れちゃいけない目線のセリフはさすがの糸井節。
止まらない。
写真集のような構成もニクい。
名シーンを一コマ一コマ載せられたところでは、不覚にも危うく泣きそうになったので、慌ててページを読み進めたほど。
ヤバイヤバイ、今仕事の昼休憩だったわ。メソメソしながら打ち合わせ再開するとこでした。
また、ゲームボーイアドバンスやバーチャルコンソールのみに収録、編集された文面についても細かく記載されているけれど、この際そんな些細なことはどうでもよくなってきたぞ。
この本の本質は思い出でもコレクションでもない、冒険だ。
改めて、このMOTHERのことば。は、コレクションだとか、攻略本のたぐいではない、これは、読むための本である。読むための本というか、もう冒険だ。
「いちごとうふ」をわざわざ作ってみたり、吉田戦車のオリジナル漫画、開発裏話や井上陽水のインタビューを挟んでみたりとゲームをマニアックに楽しめる名作「マザー百科」がコレクションアイテムだとしたら、「MOTHERのことば。」は、遊ぶものに近いかもしれない。
当初私もそうでしたが、買って満足している方も多いかもしれない。あの名言集がいつでも読み返せる、とか信仰の証や魔除みたいに手元で大事にしまっているファンもいるかもしれない。現に、買った人のレビューのほとんどが「全部のセリフが網羅されている凄い本」というものなのだから。
だけど、これを買ったならぜひ最初から読んでみて欲しい。もうなんだか止まらなくなるから。マザー百科みたいに、いつか出てくるかもしれない価値に期待するのではなく。
こういう本は今までに無かった。文字を集めるのは、気の遠くなるような、本当に大変な作業だったと思う。製作工程なんてまったく分からないけれど。
偶然にもパラパラめくってみて、こんな価値を見出せて本当に良かった。