【PSVR】「バウンド:王国の欠片」ここが良かった!


世間の反応や今後の対応ソフトを見る限りではいまひとつ盛り上がりに欠けているように思われるPlaystation VR。そんな中で2017年9月のPlaystation Plus今月のフリープレイにはリマインドとしての意図なのか、なぜかVR対応ソフトがふたつもラインナップされていました。一つがPSVRのローンチソフト「RIGS Machine Combat League」、もうひとつが今回ご紹介する「バウンド:王国の欠片」です。

そもそもせっかく並んでまでして買ったのに対応ソフトも少なくイマイチ充実したVRライフを送ることができていないため、2000円そこそこの本作を試しに買ってみようかしらと常々思っていた矢先のフリープレイ、願ったり叶ったりでした。どうもこの手のビジュアルはクセが強いのではないか?という理由でこれまで購入をためらっておりましたが、プレイしているうちにぐいぐいとその世界に引き込まれていき、3時間程度のクリア後には得体の知れないカタルシスを得ていました。

アート色の強いアクションゲーム

本作のジャンルはアクションです。敵をバシバシなぎ倒していきながら自身を強化し、何度もトライしながら強力なボスを倒す!といったアクションとは真逆で敵は一切現れず、ゲームオーバーも無く一本の道をひたすら進んでいくという不可思議な作品です。アクションでありながら爽快感も一切ありません。では一体何が一番の売りなのか?と言われれば、ビジュアルの一言に尽きます。

お断りしておくと、私は残念なことに芸術に関して見識がある方ではありません。絵画などの芸術に対しては「なんとなく奇麗な気がする…!」と感じられている気になっている程度ですが、有機的に動く造形物と光の反射の中で、伸びやかに踊りながら前へ進んでいく主人公の映像に何度も立ち止まるほど、美しさを感じられました。

またセンチメンタルなBGMも映像を引き立てています。

抽象的で独特な表現で、波打つ地面や何も無い空間から無数の何かが飛び出し浮き沈みする大地、遥か遠くに巨大な生き物がうごめいている様は、トライポフォビア(集合体恐怖症)や巨大建造物恐怖症といった、特殊な恐怖症を持つ方は注意が必要かもしれません。そういった嫌悪感の無い人にとっては美しい映像表現に感じられると思います。有機的な造形物と光の反射によって、不思議なことに私はノスタルジックな感覚すら覚えました。

一見浅そうで、心えぐられるストーリー

本作のストーリーは、間もなく出産を控えた主人公が、かつて自身のもとから去っていった父親に会うため、家族を描いた日記帳を片手に海沿いにある彼の家へ訪れるという内容。

一部のレビューでは「ストーリーが浅い」と評されていますが、確かにそう思われる気持ちも分かります。アクションの途中途中でシークエンス的に挟まれる家族のワンシーンは、夫婦喧嘩が絶えない両親の下に兄弟二人で育ち、父は出て行ってしまうストーリーが描かれます。そんな悲しい過去と対峙する心の情景を描いた一見よくある話に思えますが、親が全てである子供にとって親の心ない一言は心に深い爪痕を残し、夫婦間では些細に思える言い合いであっても、子供にとってはまるで自分たちの世界が壊れてしまうのかもしれないという恐怖を覚えるもの。

さらに主人公はこれからまさにそんな家族を新たに築こうとしている。実際に娘を持った身として、本作は心にズシリとくるものがあります。

過去との決別と新たな生命の対比から、人生の無情さと不条理さを感じて切なさがこみ上げます

VRプレイ時のカメラワークは難あり?

気になったのがカメラワーク。よくある右スティックやLRで視点をグリグリと回転させられるのではなく、右スティックを押し倒すことで、その方向から主人公を画面中心に一瞬で固定表示されるという独特の視点切り替え。奥へ進んでいくと主人公はどんどん小さくなっていき、やがて米粒のようなサイズになってしまいます。

このカメラワークも、固定された枠の中でどう美しく舞踏、表現するかといった何か意図があるのでしょうが、よくあるアクションゲームの感覚から抜け出せないせいか、どうしてもどこか不自由さを拭えませんでした。

カメラワークそのものがアクションやゲーム全体の進行をやや妨げているようにも感じ、言い換えれば、本作はゲームである必要はなく、映像作品であっても良かったのでは…?とも思いました。

こんな人は楽しめる!

・「風の旅ビト」が楽しめた人
抽象的な世界を踊りながらひたすらに進んでいく感覚はまさに「風の旅ビト」のようでした。セリフも少なく、細かいドラマはプレイヤーに委ねられます。どちらもアクション操作自体は単調でありながら、エンディングではどこかこみ上げてくるものがあります。風の旅ビトのような抽象世界をVRで歩き回ってみたいな、と考えたことのあるような人であれば、理想に近い感覚が得られるかもしれません。

・フランス映画のような、徐々に心に響く感覚を得たい人
退廃的で物憂い雰囲気でセリフも少なく、じわじわと心に語りかけてくるフランス映画のような印象も受けました。ラストもハリウッド映画のようなスカッとする終わり方ではなく、どこかモヤットとする終わり方です。

この抽象的で曖昧な描写によって細かいキャラクターの心情は我々観る側に完全に委ねられ、最も自分に心地よい解釈で物語を捉えることができます。結果的に強いカタルシスを得ることができました。

平淡なストーリーで最後にガツンと来るフランス映画「最強のふたり」なんて、凄く好きでした。

切なくてノスタルジックで、洗練された遊べるインタラクションアートのように映像美の強い作品で、少し大人向けの作品だと思います。値段も2160円と安価なので、PSVRを持っていて、ちょっとした読書感覚のゲームを楽しみたい方、さらにお子さんがいる方には特に響く作品だと思います。

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