ケムコ様にご提供いただけました「探し物は、夏ですか。」。
長引いた残暑からやっと解放され果たし今夏を語っても良いものか?という時期に突入したけれど「夏、田舎、思い出」この鉄板の組み合わせにはいつ語っても許される情緒があり、この探し物は…もまたノスタルジーを感じられるノベルゲーだった。良かった!
ノベルゲーは良い。
エルデンリングだのスプラトゥーンだの、ややこしい操作を求められては勝てない自分に愕然とする日々を過ごしており、時々コントローラーでややこしい操作を求められるゲームから解放されたくなる。そんな時は、難しい操作をせずともワクワクするストーリーへ導いてくれるノベルゲーは癒しのひとときなのだ。
だったらゲームじゃなくていっそのこと読書をしては?という声も聞こえてきそうではあるがそういうのは無視して説明していきたい。
探し物は、夏ですか。どんなストーリー?
「ぼく夏」にしても「なつもん!」にしても、とにかく我々日本人は夏というシチュエーションに弱い。そこに田舎の要素が加わろうものならば、美化されたあの夏の思い出が蘇ってくるのだ。少年時代である。汗はかくわ洗濯物は乾きにくいわで夏嫌いの私が言うのだから間違いない。
この探し物は、夏ですか。には、さらに「子供の頃仲違いしてしまったまま、ある日突然いなくなってしまった名前も思い出せない女の子」という要素が加わる。最高の組み合わせである。
そしてこの「名前も思い出せない」というところが本作の重要なミステリー要素となる。
大学生の主人公空木恭平が、離婚した母の実家である天川町に向かうところから物語は始まる。
外気のまとわりつくような暑さの8月7日、最寄りの駅から実家までの道。恭平が幼い頃に通い、数ヶ月前に店主が亡くなったままの駄菓子屋で出会った高校生の真琴と出会い、彼女の「ビー玉探し」に付き合わされることになる。
時を同じくして、舞台となる天川町では少女の失踪事件が発生。噂を耳にした恭平は幼い頃、自分の目の前からある日姿を消した少女を思い出す。
町で起きている失踪事件、少女の行方、そして真琴はなぜビー玉を探しているのか?これらの要素が交錯し、結末に向かって少しずつ真相が明かされていく。
全エンディングが真実のヒントに。ロケーションも最高。
ストーリーだけではなく、それを描く演出や構成も良い。
テキストを進めていく中で現れる選択肢を選ぶことでストーリーが分岐。辿り着くエンディングは全部で4つ、うち真実に到達するものは1つ。
残り3つの結末も真実への足がかりとなっていて、パズルのピースが埋まっていくような感覚で真相に迫っていく。
ロケーションも良い。
土手や少し手入れの行き届かない踏切、立秋頃の夕焼け空、どの背景ひとつ取っても魅力的。風あざみ。
どこか自分が生まれ育った、少年時代に足を踏み入れたことのあるような懐かしい場所、セミの声、夕方にはひぐらしの鳴き声など夏の臨場感たっぷり。ロケ地どこなのだろうか。思わずこれってうちの実家か?と思ってしまうほど。
キャラクターもフルボイス。
しかしながら、私は音声などテキストに余計な情報が入ると想像力が遮断されてしまうので、敢えて音声はオフに。こういう心遣いが嬉しい。
さて、ここに来て鋭い閲覧者様はお気づきだとおもうけれど、節々に井上陽水色が出てしまっているのは、それもこれもやはり想起せずにはいられないタイトルと田舎と夏という強いテーマ性によるものであろう。甘酸っぱいストーリーに想いを馳せながら、頭を過ぎる井上陽水をどうにか抑え込むのに失敗したので敢えて公言しておく。
圧倒的にSwitch版がおすすめ。スマホ版から書き下ろしのスチルや追加エピソードも収録!
実際にプレイしてみて面白かったので、真エンディングを見たにもかかわらず、スマートフォン(iPhone)版もダウンロードしてしまった。
スマホ版からの追加要素として、Switch版には各登場人物のボイスや描き下ろしのスチル画像が実装。
スチルってのは良いですな。出会った時は強引で本当に嫌な女だったけれど、真実に近づくにつれて愛おしくなってくる。離れると近づくし近寄れば離れていったあのシーンたちを思い出せる。(ここだけ切り取ると陽水というより古内東子っぽいな。そして例えがどれも古い。)
スマホ版のコンフィグには基本ボリュームとメッセージ速度のみで、スチルもキャラクターごとの音声ON、OFFも無いので、感情移入するならば圧倒的にSwitch版一択。
さらに特典エピソードとしてスマホ版には無い本編のその後の話、最終的な着地点が収録されているのが良い。スマホ版しかプレイしていない方にはぜひ見て欲しい!
それでも「Switchなんて持っていないからスマホ一択!」という方は、アプリダウンロード時にプレイヤーのレビュー(iPhone版は星5点中4.8点というとんでもない高評価)に容赦無くネタバレが投稿されているので、くれぐれも注意いただきたい。皆話したくて仕方がないと見える。
さて、私もこれまでノスタルジー系の映画や漫画、音楽が大好きで、色々と触れてきた。スタンドバイミー、おやすみプンプン、そして…井上陽水。その私もこの作品に対して出会えて良かったと思えるし、時々読み返したくなる。
それぞれノスタルジー系は見終わった後にどんな気持ちになったか?私の場合、スタンドバイミーはしばらく会っていない兄に逢いたくなり、おやすみプンプンは自身の娘を愛おしく感じた。そしてこの探し物は夏ですか。をプレイし終わったあとで抱いた感情としては「過去の失敗も過ちも受け入れて自分をもっと肯定してあげたい」という前向きな想いだった。
井上陽水?そうだな…井上陽水は、そうだな、うちの義父が好きなアーティストだ。
とにかく、結末を迎えてどんな感情を抱くか?それはプレイヤー次第。ほろ苦さよりも甘酸っぱさのあるストーリーでした。良かった!
ネタバレ覚悟で無料のスマホ版を試すのも良いけれど、その後の最終的な結末が収録されたSwitch版、プレイする価値あり!
探しものは、夏ですか。 ダウンロード版 – マイニンテンドーストア